2004年05月25日

100人の凡人パート2

最近の無線通信では、デジタル信号が用いられることが多い。デジタル信号を無線にするには、無線として飛ばせる高い周波数にデジタル信号を変換する必要がある。デジタル信号を高い周波数に変換すると、ある一定の(高い)周波数を持つ信号を中心に少し周波数の広がった信号となる。この周波数の広がりの範囲は帯域と呼ばれている。一般には広い帯域を用いれば用いるほど高速にデジタル信号を送ることができる。これは次のように考えることができる。

高速なデジタル信号は0と1が高速に変化している。これは周波数が高いことに相当する。しかし、0と1のデータはランダムに発生するので、0がずっと続くような場面や1がずっと続くような場面があるといくら高速にデジタル信号を送っていても信号は変化しない。信号が変化しなければ、直流が出てくるだけである。それに対し、0と1が交互に現れるときには、信号は激しく変化するし、高速な信号になればなるほど信号の周波数は上がる。実際の信号は、ずっと0や1が続く場合と、0と1が交互に出てくる場合の間と考えられるので、結果として直流から高い周波数まで満遍なく周波数成分が現れることになる。この周波数の上限がデジタル信号の送出速度に比例している。この場合の帯域は0から上限の周波数までなので、高速なデジタル信号は広い帯域が必要になる。

デジタル信号を高い周波数に変換するときには、周波数領域での足し算が行われる。もし、デジタル信号が0〜100MHz(0.1GHz)の帯域だったときに、1GHzの信号で変調をかけると、1〜1.1GHzになる(注:数字は変調方式による)。つまり帯域はそのままで高い周波数に信号が移動するだけということになる。その結果、広い帯域を使える方が、高速なデジタル信号を送ることができるのである。

それではOFDMはどうなっているのだろうか。OFDMでは、ひとつのチャネルと呼ばれる領域あたり非常に狭い帯域の信号が用いられる。この狭い帯域では遅いデジタル信号しか送ることができない。しかし、チャネルを複数用いることにより、全体としてはデジタル送信の速度を上げることができるというわけである。

これは、1本の信号線でデジタル信号を送る場合と複数の信号線でデジタル信号を送る場合にたとえることができる。ある速度のデジタル信号を送るのに1本の信号線を用いると、非常に高速に変化するデジタル信号を送らなければいけなくなる。その結果、信号線に送られる信号の帯域は広くなる。一方、複数の信号線を用いる場合、一つ一つの信号線で送らなければならないデジタル信号はゆっくりでも良くなり、帯域を狭くすることができる。後者がOFDMでの信号の送り方というわけである。

もう少し、具体的な例を挙げてみよう。先の例では0〜100MHzのデジタル信号を送ることを考えたが、1/10の速度のデジタル信号では0〜10MHzの範囲でしか帯域は必要とされない。これを1GHzの信号で変調すると1〜1.01GHzとなる。別の10MHzの帯域を持つデジタル信号を1.01GHzの信号で変調すると1.01〜1.02GHzとなる。さらに10MHzの帯域を持つデジタル信号を1.02GHzの信号で変調すると1.02〜1.03GHzとなる。このような変調を10回行い、それらの信号を重ね合わせると、結果的に1〜1.1GHzの帯域で10MHz×10のデジタル信号を送ることができるようになるというわけである。

ということは、ひとつの広い帯域を用いても、複数の狭い帯域を用いても(OFDM方式)結果として同じ帯域が使われるのであれば、送ることができるのは同じ速度のデジタル信号になるように思われる。それでもOFDMの方が同じ帯域では送ることのできるデジタル信号の速度を高めることができると言われている。なぜか。

先に述べたようにデジタル信号はその信号の並び方によって周波数が変わる。単に周波数が変わるだけでなく、周波数によって微妙に進む速度が変わるので、ある距離を進めばデジタル信号のデータ列が前後で干渉するようになる。デジタル信号を送る速度が速くなればなるほど前後で干渉しやすくなる。逆にデジタル信号がゆっくり送られれば前後では干渉しにくくなる。OFDMでは、ひとつひとつのチャネルで送られるデジタル信号の速度は遅いので干渉はしづらくなるというわけだ。

データが前後で干渉しづらくなると、結果的にはデータを送る速度を上げる余地が出てくるということになる。

計算能力の高いひとりの天才は病弱で休みがち、その結果計算を全部終えるのに時間がかかるが、ゆっくり計算する100人の凡人は健康優良で、想定される納期できっちり計算を終えることができる。この後者の100人の凡人がOFDMというわけである。
posted by かえる at 00:47| 千葉 霧| Comment(20) | TrackBack(14) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年05月23日

100人の凡人と1人の天才

100人の凡人と1人の天才はどちらの方が仕事をこなす能力があるだろうか。単純な仕事であれば、天才は必要とされずうまくコーディネートされた凡人の集団の方が能力を発揮できる。

まずはデジタル回路の場合について考えてみる。

シングルプロセッサ(1つの計算する回路がある方式)とマルチプロセッサ(複数の計算する回路がある方式)で比較してみる。計算の手順が複雑で仕事の切り分けが難しい場合には動作速度の速いシングルプロセッサの方が、高い処理能力を発揮することができる。しかし作業が単純になれば、一つ一つの動作速度が遅くても、プロセッサ数の多い方が処理速度が早くなると言われている。

マルチプロセッサのメリットをひきだすには、まずは、作業を複数にうまく分割できるかどうかという問題を考えなければならない。うまくいくひとつの例は、ベルトコンベアに乗っかった部品に処理をするがごとく、目の前の部品に作業を施し、その部品を次に渡せばすむ場合。このとき、ベルトコンベアの前に立つ人を多くして、作業を細かくすれば、1人当たりの作業量は減るので、単位時間当たりにできあがる製品の数を多くすることができる。このベルトコンベアの作業はパイプラインと呼ばれ、パイプライン化がうまくいくときにはプロセッサの数を多くすれば処理能力を上げることができることに相当する。どんどん流れ込んでくるデータを次々に処理するストリーミング処理のような分野には、このようなパイプラインが向いていて、マルチプロセッサにより処理能力を向上させることができる。

別の例は、似たような作業を同時に行うことのできる場合である。たとえば、時間変化するデータを周波数特性に変換するフーリエ変換の場合には、係数だけ違う多数の積和演算(掛け算と足し算をつぎつぎ行う演算)が必要になる。それぞれの積和演算をばらばらに行って、後から結果をまとめればフーリエ変換できることがわかっているので、それぞれの積和演算を実行するための複数のプロセッサがあれば、処理速度を向上させることができる。

ただ、作業をうまく分割できるだけで動作が速くなるとはかぎらない。並列数を上げる代わりにクロック周波数を向上させても処理速度を向上させることができるためである。100個のプロセッサに処理させる代わりに、1個のプロセッサを100倍のクロック周波数で動作させてもほぼ同じ速度を実現できるはずである。

しかし、現実には複数のプロセッサを載せるだけの場所に余裕があるのであれば、複数のプロセッサを遅いクロックで動作させる方がひとつのプロセッサを早いクロックで動作させるよりも消費電力を小さくすることができる。複数のプロセッサを用いる方が低消費電力になるカギは、消費電力と動作速度に対する電源電圧の関係にある。電源電圧を下げると、消費電力も下がる代わりに動作速度も遅くなる。ただ、消費電力は電源電圧に対しほぼ2乗で下がるのに対し、動作速度は電源電圧に対し1乗で反比例する。言い換えれば、遅延時間はほぼ電源電圧に比例して大きくなる。

その結果、電源電圧を下げると、急激に消費電力が下がるのに対し、速度の劣化はそれほどでもない。プロセッサの並列数と消費電力はほぼ比例すると考えてよいので、劣化した速度は並列数で補った方が低消費電力になるのである。最近のプロセッサは熱による速度リミットがかかっていることがあるので、発熱量を抑えられるマルチプロセッサの方が結果的に処理速度を上げられる余地がある。

アナログの世界でも、100人の凡人が1人の天才に勝つような場面がある。ここで100人の凡人のたとえを使っているのは、デジタル信号を高周波信号に変換する際のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)である。この話は次にしよう。
posted by かえる at 23:32| 千葉 雨| Comment(15) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

マイナスの抵抗

何かに電流を流すと普通は両端に電圧が発生する。電圧の極性は、流し込む側が正、流れ出る側が負というのが普通だ。

しかし、世の中には逆の特性を示すもの、つまり流れ込む側が負、流れ出る側が正という回路も存在する。電圧=抵抗×電流というのがオームの法則であるが、この式の中の抵抗が負の値を示す場合に相当する。このような抵抗は負性抵抗(negative resistance)と呼ばれている。

負性抵抗は、ポテンシャルの低い側からより高いほうに電流を流すので、エネルギーを発生させる。その結果、弱った信号を強くする一種の増幅作用がある。この、負性抵抗による弱ったエネルギーを強くする作用と、損失のあるLC回路を組み合わせると、LC回路の損失をキャンセルすることができるようになる。これは、損失の無いLC回路と同様なため、共振周波数でずっと振動を持続することがをつくることができるようになり、いわゆる発振回路とすることができる。

つまり、負性抵抗をつくることができれば、発振回路をつくることができる。では、負性抵抗はどのようにして作られるのであろう。負性抵抗を作る方法は何通りもあるが、ここでは差動信号を用いて負性抵抗をつくる方法について説明する。

差動信号とは、2つの信号線があり、その2つの信号線が正反対の変化の仕方をするものである。このような2つの信号は、位相が180度異なっていると呼ばれている。この全く正反対に変化する信号とMOSFETのソース接地回路を組み合わせることにより負性抵抗を作り出すことができる。方法を説明しよう。

ソース接地回路は、ゲートへの入力電圧の変化をドレイン電流の変化として取り出す。ここで、ゲートへの入力電圧と正反対の変化をする信号をドレインにかけてみる。ゲート電圧が増加すれば、ドレイン電流は増加する。しかし、ドレイン電圧は、ゲート電圧の反対の変化をするため減少することになる。そのため、ドレインから見ると、電圧が減少するにもかかわらず電流が増加することになる。その結果負性抵抗を作り出すことができる。

次は、どのようにして差動信号をつくりだすかということである。ソース接地回路は、デジタル回路ではインバータと呼ばれるように、反転増幅回路である。もし、2つのソース接地回路(インバータ)をループ状に接続すれば、2つの端子は反対方向に変化することになる。それぞれのMOSFETのゲートどドレインは反対方向に変化する別々の端子に接続されているため、ゲートどドレインは差動信号とすることができるのである。

その結果、2つのソース接地回路をループ状に接続することにより負性抵抗を作り出すことができる。この2つの端子にLC並列共振回路を接続すれば発振回路とすることができる。

これが、携帯電話などに使われている発振回路の原理である。マイナスの抵抗の最も重要な応用回路である。
posted by かえる at 02:46| 千葉 雨| Comment(1) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年05月18日

信頼できるのか?

今日はデジタル回路とアナログ回路の設計上の違いについてちょっと変わった見方をしてみる。

同じ「回路」という名前がついているものの、設計スタイルは、今のところ全く違うといってもよい。デジタル回路の場合は、回路設計というよりはシステム設計からソフトウェアプログラミングがメインの仕事になる。いわゆる回路図などというのを書くことは滅多に無い。回路をつくるのは、コンピュータの仕事だ。回路からレイアウトにするのもコンピュータの仕事。できあがったレイアウトはコンピュータの作ったごちゃごちゃした図面を模様として眺める程度で、誰も解読することはできない。だって1億を超えるトランジスタが並んでいるんだから。。

一方、アナログ回路の場合、トランジスタの1個1個を回路図に描くことはいうに及ばず、場合によっては、特性を揃えるために動作に関係の無いトランジスタを埋め込むダミーまで人手で埋め込むことになる。レイアウトも、専門家がノイズなどを考慮しながら人手で行うことが多い。文字通り絵に描いたようなクラフトワークである。

動作のシミュレーションは、アナログであってもデジタルであってもコンピュータで行われるが、実装に関しては、デジタルはほとんど自動、アナログはマニュアルというわけである。

デジタル回路の場合シミュレーションが成功していれば動作する可能性は非常に高い。コンピュータによる自動化の恩恵を受けてミスが入り込む余地がすくないのだ。一方、アナログ回路の場合、シミュレーションではうまくいっても、実際作ってみると所望の特性が得られない、あるいは動作しないということが起きることも多い。

その結果、すばらしい(と思い込んでいる)回路を思いついたとしても、デジタル回路の場合、論理的に正しければ結果も正しくなる可能性が高いが、アナログ回路の場合、実証しなければ多くの人は信頼してくれない。それくらい、考え落としが多く、作ってみるまでわからないことが多いのである。

それにしても、作らなきゃ信頼してもらえないのは、つらいものである。これがつらくならなくなったら免許皆伝になるのかなぁ。
posted by かえる at 23:19| 千葉 曇り| Comment(4) | TrackBack(2) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

何で差を増幅する必要があるの?

前回差だけを増幅するという差動増幅回路の話を書いた。信号をそのまま増幅することなく、2つの信号の差を増幅することのご利益について今回は書こう。

ちょっと回路を知っている人なら思いつくのは、オペアンプに差動増幅回路が用いられているということである。オペアンプ(演算増幅回路)というのは、アナログ回路では最もよく用いられる集積回路であり、2つの入力と1つの出力を持つ。2つの入力は差が増幅される。従って、差を増幅する回路という点では差動増幅回路と変わらない。ただ、オペアンプの場合、増幅率が無限大とみなせるほど差はでっかく増幅される。差動増幅回路の増幅率が非常に大きくなったものがオペアンプと考えても良い。その結果、有限の大きさの出力が得られるときには、2つの入力の差は0、つまり2つの入力が等しいことになる。有限の値を無限大で割れば0になるからである。

ただ、この、「出力が有限の値になっている」という点にトリックが隠れている。増幅率が無限大なんだから、特別なことをしなければ、適当な入力を与えれば出力の大きさは無限大になってしまう。ほっておけば無限大になりそうな出力を有限の値にするには、負帰還と呼ばれる技術が使われる。負帰還とは、出力の一部を入力に戻し、出力が大きくなれば小さくしようと、出力が小さくなれば大きくなろうとする働きをする。このようなことをさせるために、入力から出力(の一部)を引き算して、それを増幅した結果を出力するというループの形の接続がされる。出力あるいは出力の一部を引くという操作を行うために、マイナスの符号で信号を戻す必要がある。これが、負帰還と呼ばれる理由であり、負帰還をかけるためには、差を増幅する回路が必要になるのである。

差を増幅する回路が必要になるのは、負帰還を使う場合だけではない。雑音を抑えるためにも必要になる。

アナログ回路に使われる信号は雑音に敏感である。通常、雑音がアナログ信号に混じるとあとからは取り除けない。ここで、デジタル回路の場合、信号に雑音が混じっても、0あるいは1の信号レベルに戻す波形整形が回路を通過するたびに行われるので、雑音には強い。しかし、雑音に弱いアナログ回路は、雑音から守るには特別な回路が必要になる。そこで用いられるのが差を増幅する回路である。

差を増幅する回路の2つの入力信号線が近くにある場合を考える。一方の信号線に雑音が混じると、近くにあるもう一方の信号にも少なからぬ雑音が混じる。もし、2つの信号線の距離が極めて接近していれば、2つの信号線には同じ大きさの雑音が混じることになる。この場合、同じ大きさの雑音が2つの信号線に混じるので同相信号(平均値の変動する信号)となる。

差動増幅回路は差動信号を増幅するだけでなく、同相信号を抑える働きをする。その結果、雑音信号が同相信号なら、差動増幅回路の出力には、雑音は現れなくなる。

これが、差動増幅回路を用いるもうひとつの大事な理由である。差だけを増幅する回路なんて、とてもトリッキーな印象をうけるが、アナログ回路には大変重要な役割を果たしている。
posted by かえる at 00:26| 千葉 | Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年05月16日

差だけを増幅する回路

アナログ回路では差だけを増幅する回路が重要になる。

差を増幅するので入力は2つあり、その2つの入力の差に比例した出力を出す。ここで大事なことは、差を増幅するという言葉の裏には、差以外の成分は増幅しないということが隠れている点である。

小学校のとき、和差算というのがあった。これは、2つの数字の和と差から2つの数字は何かを導き出す問題である。もし、2つの数字の差と和がわかれば2つの数字を導き出すことができるのである。差以外の成分を増幅しないということは、和成分を増幅しないということである。2つの数字の和を2で割れば平均になるので、差を増幅して平均は増幅しないと思っても良い。

この差を増幅する回路は差動増幅回路と呼ばれている。

専門用語を使うと、差成分は「差動信号」、平均成分は「同相信号」と呼ばれるが、差動増幅回路は、差動信号だけを増幅し同相信号を増幅しない回路である。

なぜ、こんなことをくどくど言うかというと、差を増幅する回路は差動増幅回路以外でも実現できるからだ。単に増幅回路を2つ用意しても、2つの入力信号の差は出力信号の差となって現れる。問題は、2つの増幅回路を用いて差を増幅すれば、差動信号だけでなく同相信号も増幅されてしまうという点。差動増幅回路は、その名前に反して、大事な機能は同相信号を抑制することであり、同相抑制回路と呼んだほうが適切な印象を持っている。

とはいえ、同相抑制回路では、何のことかイメージがつかみにくいので差動増幅回路という名前になったのであろう。

差動増幅回路の作り方は以下のとおりである。まず、基本的な増幅回路であるソース接地回路を2つ用意する。ソース接地回路は文字通りソースがグランドに接続されているが、そのソースをそれぞれグランドから切り離し、2つのソースを接続する。2つのソースに共有されたノードからグランドの間に、定電流回路(電圧によらず一定の電流を流す回路)を挿入する。これで、2つのソース接地回路に入力される信号のうち、差だけを増幅し、平均は増幅しない回路ができあがる。

2つのソース接地回路に使われるMOSFETが差動信号を増幅する働きをし、定電流回路が同相信号を抑制する働きをする。差動増幅回路で、特徴的で重要な働きをしているのがこの定電流回路である。この定電流回路はテール電流源と呼ばれている。しっぽのように増幅回路の下にぶら下がっているからであろうか。

CMOSに限らずアナログ回路で、インバータ(ソース接地回路)などの基本的な回路を除いて最もシンプルでスマートな回路と感じるのは差動増幅回路だ。つぎは、なぜ差動増幅回路が役に立つのかという話をしたい。
posted by かえる at 10:05| 千葉 雨| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年05月15日

Simple is best.

回路の性能が良いといっても評価の仕方は一通りじゃないのでむずかしいけど、「動作速度」と「消費電力」は代表的な評価指標だ。

たとえば、Pentiumプロセッサでは、クロックが高いほうが、そして同じクロックなら消費電力が低いほうが価格が高い。ということは、付加価値が大きい。じゃぁ、付加価値を生み出す高速性と低消費電力を実現するにはどうすれば良いのだろうか。

CMOSデジタル回路の場合、回路の入力容量(これは、直前の回路の負荷となる)が小さく、駆動能力が高く電流をたくさん流せる方が高速になる。集積回路の場合、ゲート長と呼ばれるMOSFETの最も重要な寸法が短くなればなるほど、入力容量も小さく、駆動能力も上げることができる。

消費電力は、クロック周波数と入力容量と電源電圧で決まる。クロック周波数や電源電圧が低いほど低消費電力になるし、速度のところで出てきた入力容量が小さいほど低消費電力になる。同じ回路であれば、そしてクロック周波数が同じであれば、微細化が進むほど低消費電力になるのである。実際には、微細化が進むと、機能を充実させたり、クロック周波数をあげたりするので、必ずしも低消費電力にはなっていないが。ここまでは、製造技術の向上によって性能がよくなるという話で回路技術とは直接は関係はない。

じゃぁ、回路技術によって、高速や低消費電力は実現できないかというと、そんなことはなく、回路技術の向上によっても、最近では昔に比べ格段に性能が進歩してきている。この回路技術の中身は、あまりにも各論になりすぎるので今ここでは書かないけど、たとえば最近(といっても2年前くらい?)のプロセッサでは、遺伝アルゴリズムを用いて回路のばらつきを製造後に補償してクロック周波数を極限まで高めたり、使っていない回路の電源をこまめにオフすることによって消費電力を減らしたりする技術がある。ただ、製造技術のように、微細化すればすべてがばら色みたいな明確な指針があるわけではない。

一般論としては、どんな方法で回路設計者は性能を高めようとしているかというと、
・ダメなところを補償する
・不必要な機能をなくす
と大きく分けて2通りのパターンに分けられる。前者は、回路を複雑にするが、後者は回路をシンプルにすることが多い。世の中うまいことできているもので、複雑にする方向とシンプルにする方向がうまい具合にバランスが取れて最終的な回路が出来上がっている。たとえば、ボトルネックになってる現象を補償するために回路を付け加えたりしても、次の時代には別の方法でその補償をする必要がなくなる(あるいは現象そのものがなくなっている)ためにその回路が要らなくなるということがある。回路の中で(多くの場合見過ごされているような)オーバースペックな機能をなくすことにより高速にできることがある。

シンプルにして性能を高める回路は息の長い技術になる可能性が高く、本当にシンプルなソリューションに出会うと個人的には大いに感動する。あぁ、そうだったのかと。

批判的なことを書くと墓穴を掘りそうだが、日本発の技術は、このシンプルソリューションが少ないような気がする。目先の製品を完成させるためには「ダメなところを補償する」ことが大事だけどね。技術者の名前がつくようなシンプルな回路は美しいと感じるし、絶対に忘れられることはない。
posted by かえる at 10:31| 千葉 | Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年05月14日

発振回路 パート2

発振回路を作ることができるのはLC共振だけでない。

水晶だって発振回路を作ることができるし、コイルの代わりに抵抗を用いて発振回路を作ることもできる。ただ、これら、水晶を用いる場合も、抵抗とコンデンサを用いる場合も、増幅回路の増幅率(入力を何倍にするか)と位相の変化(入力信号に対して出力信号が1周期あたりどれくらい遅れるか)の特性から発振回路を作り出すアナログ回路である。

アナログ回路だけでなく、デジタル回路でも発振回路を作ることができる。

デジタル回路を使った発振回路は、インバータをリング状に接続するため、リングオシレータと呼ばれている。もし、つないでいるインバータの数が奇数個だったら、インバータのリングを信号が1周して元に戻ると信号が反転する。その反転した信号がまたもやリングを1周して元に戻ると信号は反転している。信号は、1周ごとに反転するので、決して同じ値で安定することはなく、0と1を交互に繰り返すようになる。その結果発振する。

デジタル回路のタイミングを作り出すクロック回路には、このリングオシレータが使われることが多い。リングオシレータは、小さな面積で回路を構成することができる反面、LC発振回路に比べると雑音が多いという特徴がある。

今日は眠いのでここまで。ピッコロ大王のおかげでアクセス数が異常に増えていてびっくりした。
posted by かえる at 00:34| 千葉 晴れ| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2004年05月12日

発振回路

発振回路というのは、決まった周波数の正弦波を作り出す回路だ。無線回路で用いられる発振回路は、コイルとコンデンサで作られる共振回路を用いている。共振回路というのは、コイルとコンデンサが並列あるいは直列に接続されて作られる。

発振回路は共振がキーワードなので、まず共振について説明する。共振というのは2種類のエネルギーのキャッチボールをしながら行ったりきたりしている現象のこと。たとえば、振り子の場合には、位置エネルギーと運動エネルギーがお互いにエネルギーのキャッチボールをしながらゆれ続ける。コイルとコンデンサの共振回路の場合、コイルに蓄えられる磁気エネルギーとコンデンサに蓄えられる電気エネルギーの間でキャッチボールが起こる。このキャッチボールが1秒間に何回起こるかが共振周波数である。

コイルとコンデンサを並列に接続すると、共振周波数と呼ばれる特定の周波数で、インピーダンス(交流信号の抵抗)が高くなるという性質がある。直列に接続すると、今度は逆に共振周波数でインピーダンスは低くなる。共進回路では、コイルのインダクタンスをL、コンデンサの容量をCとすると共振周波数f0は、

f0 = 1 / (2π√(LC))

となることがわかっている。なお、πは円周率(3.14159...)である。

一方、発振回路は、この共振回路と増幅回路を組み合わせて作られる。増幅回路は、出力につながる回路(負荷と呼ばれる)のインピーダンスが高いほうが増幅率(正確には電圧増幅率)が高くなるという性質がある。増幅回路の出力に共振回路を用い、特定の周波数でインピーダンスが高くなるようにすれば、その周波数だけ増幅するようになり、あとの周波数は増幅しなくなる。増幅された信号を入力に戻す(これを帰還をかけるという)と、さらに信号が大きくなって出力される。それを繰り返せば、信号はぐるぐる回っているうちに無限に大きくなることになる。実際には、信号が大きくなると増幅率が落ちるので、無限に信号が大きくなることはなく、一定の大きさの信号が安定して出力されるようになる。これが発振回路の動作原理だ。

発振回路の場合、コイルとコンデンサを並列接続し、共振周波数でインピーダンスが高くなるようにしている。さらに、コンデンサの容量を電気的に変化させることにより、発振周波数も調整できるようにしている。このように、電気的に容量を変化させることのできるコンデンサはバラクタと呼ばれている。

携帯電話や無線LANカードの中にはコイルやバラクタがあり、電波に用いる信号が発振回路を用いて作り出されているのである。2.5GHzの無線LANカードの場合、コイルの磁気エネルギーとコンデンサーの磁気エネルギーが1秒間に実に25億回もやり取りされているのである。
posted by かえる at 23:42| 千葉 曇り| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

3つの名前

デジタル回路で最も簡単なのはインバータである。CMOS回路の場合、PMOSと呼ばれるMOSFETとNMOSと呼ばれるMOSFETがお互いの働きを補いながら(CMOSのCはComplementary:相補型の意)入力の反転信号を作り出す。

デジタル回路と同様、増幅回路でも最も基本的な回路はインバータである。実際、デジタル回路で用いられるインバータに適当な入力電圧をあらかじめ与えておけば(専門用語ではバイアス電圧をかけると呼ぶ)、小さな入力信号で大きな出力信号が得られる。もちろん反転した信号が得られる。

以下、CMOSインバータがどのような回路かを知っていることを前提に話が進むが、知らない人は、最後の結論以外は読み飛ばしてもよい。

話を元に戻して、アナログ回路では、このような回路を「インバータ」と呼ぶことは少なく、ソース接地回路と呼ぶことが多い。インバータの場合は、直訳すれば反転器、アナログ回路用に意訳すれば反転増幅回路になるのであろうが、ソース接地回路とは、文字通りソースが接地されている回路をさす。

CMOSの場合、NMOSのソースはグランドに接続されているが、PMOSは電源に接続されている。NMOSはソース接地でOKだけど、PMOSはソース電源接続回路と呼ぶべきであろうか?答えはノーで、PMOSもソース接地回路でよい。

それは、電源は、交流信号で考えると接地されているとみなされるため。なぜそうなるかは、簡単に言えば次のとおり。電源とグランドは、どちらも電圧が固定されていることに変わりはなく、たまたま今基準に考えているところがグランドになっただけであり、電源を基準に考えて、グランドに負の電圧をかけていると「思っても」かまわない。つまり、電源とグランドは、本質的には違いはない。交流信号にとっては、グランドにつながっていようが、電源につながっていようが、電圧が固定されている端子につながっていれば接地されているとみなされる。その結果、CMOSインバータの場合、NMOSもPMOSもソースが接地されていることになる。

さらに話をややこしくするのは、英語では、ソース接地回路はCommon Source Circuitと呼ばれていること。直訳すればソース共通回路となる。何が「共通」かというと、出力と入力に共通にソースが用いられているところだ。入力の交流信号はゲートからソースに向かって電流が流れるし、出力の交流信号はドレインからソースに向かって電流が流れる。入力にも出力にも共通に用いられる端子はソースということになる。

CMOSデジタル回路のインバータと、アナログ回路のソース接地回路と、英語の「Common Source」は同じものをさしている。というのは、結局あとの世代は理屈ぬきでからだで覚えるしかない。

同じ回路を呼ぶのに、使われる場所や使われる人が違うことにより、呼び方が違うのは、本当にややこしい。
posted by かえる at 01:33| 千葉 | Comment(16) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

広告


この広告は60日以上更新がないブログに表示がされております。

以下のいずれかの方法で非表示にすることが可能です。

・記事の投稿、編集をおこなう
・マイブログの【設定】 > 【広告設定】 より、「60日間更新が無い場合」 の 「広告を表示しない」にチェックを入れて保存する。